東京高等裁判所 昭和39年(ネ)552号 判決 1965年12月21日
控訴人 X
右訴訟代理人・弁護士 下光軍二
被控訴人 Y1
被控訴人 Y2
右両名訴訟代理人・弁護士 八木力三
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は、「原判決を取り消す。昭和三六年一月七日東京都中野区長宛届出にかかる控訴人、被控訴人Y1間の離婚は無効であることを確認する。控訴人と被控訴人Y1とを離婚する。右両名間の長男Aの親権者を控訴人とする。被控訴人らは連帯して控訴人に対し金一〇〇万円、さらに被控訴人Y1は控訴人に対し金三〇万円、並びに右各金員に対する昭和三七年五月一日から各完済まで年五分の金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人ら代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用、認否は、控訴代理人において当審における控訴本人尋問の結果、被控訴代理人において当審における被控訴人Y1本人尋問の結果を各援用したほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
理由
当裁判所も原判決と同様、本件離婚届書(検甲第一号証)は昭和三五年一二月二八、九日頃真正に作成されたこと、控訴人の離婚意思はおそくとも同月三一日被控訴人との離婚条件の協議成立の際には確定したこと、翌三六年一月七日Y1において右届書を東京都中野区役所に提出したことを認めるものであり、控訴人主張の、右離婚の承諾が公序良俗に反する無効のものであるとの主張は採用しないものであって、以上認定の詳細は原判決摘示のとおりであるから、原判決中右に関する部分(一〇枚目表第二行から一四枚目表第一行まで。但し一〇枚目表末行「被告Y1本人尋問の結果」を「原審並びに当審における被告人Y1本人尋問の結果」とし、一三枚目表第四行から第五行の「離婚届を受理しないよう申出た」を「離婚届を受理しないことはできないかと聞き合わせた」とする。)を引用する。当審における控訴本人尋問の結果中右認定に反する部分は採用することができない。
そこで控訴人がその後離婚意思を撤回したとの主張についてみるに、控訴人は前認定のとおり昭和三六年一月五、六日頃区役所係員に対し離婚届を受理しないことはできないかと聞き合わせた事実があるけれども、控訴人は当時被控訴人Y1に対し離婚の飜意を申し出た事実の認められないこと及びその後同月一一日、一六日の二回に離婚協議所定の慰藉料の残額五〇万円を受領していることからいって、前記区役所における事実は、控訴人の離婚意思が当時再びやや動揺したことをうかがわせるに止まり、すでに定まった離婚の合意を破棄し、その意思を明確に有しなくなったことを意味するものとは認められない。ほかに離婚届出のなされた一月七日までに控訴人が離婚意思を撤回したとの事実を認めるに足りる証拠はない。
次に本件離婚の合意には金六〇万円の支払完了前の離婚届出は無効とするとの条件が附されていた旨の控訴人の主張についてみるに、前記乙第一号証(契約書)に「乙が右の金額の全額を受領せざる限り甲の提出する離婚届は無効とする」との記載があるけれども、前認定のとおり右書面作成当時すでに控訴人の離婚意思は確定していたのであって、原審並びに当審における被控訴人Y1本人尋問の結果によれば、右条項は控訴人において離婚を承諾して慰藉料の増額を求めかつ慰藉料の支払確保のため希望したものであることが認められるから、右条項についての合意は離婚に条件を付したものとはいえず離婚意思に影響を及ぼすものではない(元来離婚に条件を付することはできないのであるから、一見条件付のように見えても、全体として離婚意思の有無を判断すべきである。)。
以上のとおりであるから、控訴人の離婚無効の主張はいずれも理由がなく、その無効確認の請求は失当である。
従ってまた右離婚無効を前提とする控訴人の離婚の請求の理由のないことは明らかである。
さらに控訴人の慰藉料の請求は右離婚請求に附帯し当該離婚そのものによる慰藉料を求めるものであることが明らかであり、また財産分与の請求も、家庭裁判所に審判をもって求めるのと異り離婚請求に附帯する申立であると認めるほかはないから、右離婚請求が認められない以上、右各請求もまた理由がない。
よって控訴人の請求を棄却した原判決は相当であるから、民事訴訟法第三八四条により本件控訴を棄却し、訴訟費用につき同法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 浅賀栄 裁判官 小堀勇 佐藤邦夫)